ランチアの小さな高級車、イプシロン!
Vol.002 


90年代のイタリア小型車の傑作は、誰が何と言おうと、ランチア「イプシロン」(Y11)で間違いありません!
これほどまでにイタリアが凝縮された車も、ここ最近ではお目にかかっていません!
99年から2年程乗っていましたが、私にとっては一番のピッコロ・マッキナ(小さな車)でした。
現在、ランチアは、イタリアの一般市民にとっては、「ちょっと高級車」のブランドで、社長さんなどのお偉いさんが乗る車というイメージがあるようです。 (もちろん、超お金持ちは、マゼラッティーなどに乗りますが…)
とにかく、一般的には、スポーティーさはアルファロメオが、大衆実用部門はフィアットが、そして、高級テイストはランチアが受け持っているのです。
(実は、フェラーリもマゼラッティーもアルファロメオもランチアも、みんな同じフィアットグループの会社です。)

やはりイタリアには、今も階級社会があるので、いくら落ちぶれても、貴族は貴族、金持ちは金持ち。大衆車になど乗れません。しかしながらそんなにお金もない。
そこで、ランチアの登場となる訳です!イタリア人の足として活躍する、フィアット・パンダやプントの代わりとしての役割が、そこにはあります。

招待されて訪れた、とある貴族のガレージに、フィアット車は一台も置かれていませんでした。
しかし、使用人たちが買出しに出かけたり、邸宅内の移動用には、ちょっとした小型車が欲しいところ…。
そこで、ランチア・イプシロンの登場となる訳です!、ディムラー・ダブルシックス、ランドローバー・ディフェンダーといったイギリス勢と共に、車庫に並べてありました。
もちろんの事ですが、イプシロンは、貴族だけのためにあるのではなく、「車にもお洒落をしたい!」「人とはちょっと違うテイストを求めたい!」 そんな人に、まさにうってつけのマッキナ(自動車)なのです!





実はこのイプシロンは、非常に自由度の高い車で、外装色は、カレイドスと呼ばれる全108色の中から、内装も10数色の中から、好きな組み合わせでオーダーできます!
一般大衆クラスの車で、これほどまでに採算を度外視した車作りを行えるのは、イタリアのメーカー以外には考えられません!
また、デザインがすごい!凄すぎる!イタリアカーデザインの天才、エンリコ・フミアが手書きで描いたスケッチを、何と、ほとんどそのままに実車化!
最近、世界中の車のデザインが似通っているのは、同じグラフィックCADソフトを使っているからだと言われていますが、イプシロンは、あくまでも手書きなのです!
何にも似ていない強烈な個性!小型車であっても、ブランドのタグは「ランチア」!売れないはずがありませんでした。イタリアでも大人気を博し、一時は、ランチア全体の約60%の生産シェアを誇っていました!
小さな車でも、高級マーケットが存在すると予測した、その先見性と冒険心に拍手を送りたいものです!
私が乗っていたイプシロンは、ヴェルデ・グラスと呼ばれる、メタリックな黄緑色のボディーで、内装は濃い目の緑のアルカンタラ (ランチアが得意とする人工皮革)。
乗っているだけで、「オーナーはセンスのある人」のように思われます!もともと、先代のフィアット・プントをベースにして作られたものですが、質感が、プントよりはるかに高く、乗り心地もかなり上質で、同じ車とは到底思えない出来の良さがあります!
価格の方も、イタリアでは、プントの2〜3割増しにとどまり、内容を考えれば、イプシロンのコストパフォーマンスは、ずば抜けて良いのです!

しかしながら、こんなに優れた車であるのに、日本では、まずお目にかかることはありません!なぜなのか?!
答えは簡単!正規輸入が行われなかったのでした!イプシロンが発売された96年頃から今に至るまで、日本国内には、ランチアの販売流通網、いわゆる、正規ディーラーがない状態!
マツダのオートザム店が、一時期、ランチア・テーマとデドラを売っていましたが、いつのまにか立ち消えてしまいました。!
輸入元のフィアットオートジャパンも、プントの販売に力を入れていたため、イプシロンは、遂に日の目を見る事がありませんでした!
しかし、だからこそ、国内では非常に稀有な車となり、人とは違った車を求めるイタリア車フリークを虜にしたのです!

イプシロンは、現在でも並行輸入車として手に入れることが出来ます。(日本円で約200万円) 新型プントと比べると、約40万円程高く、一世代古い車ですが、十分に満足できます!
2年間乗っていて、トラブルなど全くなし!ひょっとすると、トータルの満足度では、私の自動車ヒストリー中、ナンバーワンに輝いてしまうのかもしれません!

女性の皆さんには、とくにおすすめできます!マニュアルで乗ってもらいたいですが、オートマ限定の方には、無段階変速のオートマチックCVTもあります!左ハンドルの運転は、慣れればOK!
「車ひとつで、こんなに生活が変わるのか!」「運転は楽しいものなんだ!」と感じていただける事間違いありません!

機会があれば、もう一度乗ってみたい!
イプシロンは、感性に訴えてくる、イタリア車中のイタリア車なのです!

正式名称は、ランチアY11 イタリア語で、「Y」をイプシロンと発音します。
このY11の前に、Y10(日本での通称、ワイテン)と呼ばれる、フィアット・パンダをベースとしたモデルもありました。